むずむず脚症候群
むずむず脚症候群とは脚を中心とした異常感覚と不快感が生じ、それにより脚を動かしたいという強い衝動が生じる疾患です。他の呼び方としてはレストレスレッグス症候群(Restless Legs Syndrome:RLS)や下肢静止不能症候群とも呼ばれたりしています。夕方から夜間にかけて症状が出現するため、睡眠時間の減少や、夜中に目が覚めるなどの中途覚醒の症状で睡眠の質が悪くなることから睡眠障害の一つに分類されています。
むずむず脚症候群の症状
中心的な症状は夕方から夜間にかけて四肢に生じる異常な感覚です。脚の皮膚表面だけではなく筋肉や骨などの深部にも生じることがあります。異常な感覚とは「むずむず」「そわそわ」した感じや、灼熱感やうずく感じ、こむらがえりのような疼痛感、ピリピリやちくちくといった痛痒い感覚、ひりひりと火照る感覚、細かい虫がはっているような奇異な感覚など、患者さまにより訴えは様々です。異常な感覚は通常は両側性に出現しますが、片側性の場合もあります。また脚以外にも症状が出現することがあり、病態によっては股関節や体幹部にまで及ぶケースもあります。
むずむず脚症候群では、このような異常な感覚、不快感は安静時(横になったり、座ったりしている時)に出現し増悪します。多くの場合、脚を動かしたい、動かさざるをえないといったような強い衝動にかられます。そしてこの衝動と異常感覚は脚を動かすことにより消失または緩和するのが特徴です。異常感覚を感じている部位以外を動かすことにより消失・緩和する場合もあります。つまりこのような衝動・異常感覚は身体のどこかの部位を動かしている間は症状が消失・緩和しますが、再び安静状態に戻ると再び症状が出現します。
これらのむずむず脚症候群の衝動・異常感覚は夕方から夜間にかけて増悪するといった日内変動がみられます。そのため夜間に眠ろうと思って布団にはいり、目をつぶっても異常な感覚と脚を動かしたい衝動にかられ、実際に脚を動かしてなかなか入眠できず、適切な睡眠時間を確保すことが困難になっていきます。またようやく入眠できたとしても夜中に中途覚醒が起こりやすく、再び異常感覚と動かしたい衝動が出現し、再入眠が妨げられるといったことも生じてきます。
この睡眠時間の減少や睡眠の質の低下により日中の疲労感や倦怠感が強くなり、業務や家事に対する活動力や集中力の低下をきたしてしまいます。このようにむずむず脚症候群は家庭や家族、社会的活動、職業生活に大きく影響を及ぼし、むずむず脚症候群でお困りの患者さまは著しくQOL(quality of life:生活の質)が低下しているという調査報告もあります。
むずむず脚症候群の原因
むずむず脚症候群の原因についてはっきりとした機序は明らかになっていません。現在のところは①ドパミン神経系の機能障害、②脳内における鉄濃度の低下、③遺伝的要因等が考えられています。
中枢神経系のドパミン神経系の機能異常
むずむず脚症候群ではL-DOPA及びドパミン受容体アゴニストによって症状が改善されたり、ドパミン受容体アンタゴニストにより症状が悪化することから神経伝達物質であるドパミンとの関連性が指摘されてきました。特にドパミンアンタゴニストは吐き気どめ等の薬剤に含まれていることがありますが、この吐き気どめの薬剤のうち脳内に到達するタイプの薬剤では症状を悪化させますが、脳内に到達しないドパミンアンタゴニストはむずむず脚症候群の症状を悪化させることはありません。
これらのことから中枢神経系(脳内)におけるドパミン神経系の何らかの障害がむずむず脚症候群に関与していると考えられています。
脳内における鉄濃度の低下
鉄欠乏性貧血や妊娠、腎機能障害が背景にある場合などはむずむず脚症候群を引き起こす原因となります。これらの共通の特徴として鉄不足があげられます。人は食事などで摂取した鉄分を血液をつかって身体のすみずみまで輸送しドパミンなどの生合成に関与しています。その鉄分の貯蔵、輸送に関与しているフェリチンとトランスフェリンという物質があります。
むずむず脚症候群の方は通常よりもフェリチン濃度が低下し、トランスフェリン濃度が上昇しているという報告があります。この鉄欠乏状態にあるかどうかは血液検査にて調べることができます。鉄分の不足を補うことで症状が改善する場合もありますので、血液検査が重要になってきます。
遺伝的要因
むずむず脚症候群の遺伝研究によりますと、患者さまの血縁関係で同じ様な症状に悩んでいる方が6割と報告され、遺伝的な要因が発症に関与している可能性があるとされています。特に45歳以前にむずむず脚症候群の症状が発現した人にはとりわけ遺伝的な要因が強いということも分かってきています。
むずむず脚症候群の診断と治療
むずむず脚症候群の診断は詳細な病歴と遺伝的背景の聴取にはじまり、現在表出している臨床的特徴から評価し、総合的に判断します。患者さまによって症状の表現はさまざまであるためむずむず脚症候群の症例を多数経験した専門家でないとかなり診断は難しいとされています。
鑑別診断される疾患群を的確に取り上げ、ひとつずつ除外し、二次性レストレスレッグス症候群を引き起こしている疾患の有無を確認したのに確定診断にいたります。現在はむずむず脚症候群に対して数種類の治療薬が開発されているため、治療の選択肢も広がってきています。